2015年12月2日に野村総合研究所が「10~20年以内に、日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に※1」という内容のレポートを発表しました。今年2025年は、この発表から10年目にあたります。この数年、ChatGPTの登場で多くの人が日常的にAIにふれるようになりましたが、2015年の発表のとおり、実際にAIは人間の仕事を奪っているのでしょうか?
2025年現在、我々にとって最も身近なAIであるChatGPTができること、できないことを振り返りながら、AIと私達人間の仕事について考えてみましょう。
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※1野村総合研究所 2015年12月2日のリリース「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に~ 601種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算 ~」https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf
AIとロボットによる職業代替の未来
冒頭で取り上げたレポートについて、もう少し詳しく説明します。野村総合研究所は、英オックスフォード大学の研究者と共同で、日本国内の601種類の職業について、人工知能やロボットによって代替される確率を試算したレポートを発表しました。その結果、日本の労働人口の約49%が就いている職業が、10~20年後には人工知能やロボットによって技術的には代替できる可能性が高いと推計されています。
この研究は、野村総合研究所の「2030年から日本を考える」というプロジェクトの一環で、人口減少に伴う労働力不足をテクノロジーで補完することの社会的影響を探るものです。このレポートは、技術進歩がもたらす職業の未来について考える重要な材料を提供しています。日本社会が少子高齢化と向き合う中、AIとロボット技術の活用と、その影響をどのように受け入れていくかが問われています。
さらに、ChatGPT登場以降の2023年8月には、OpenAIとペンシルベニア大学により、「米国の労働力の約80%が、LLM※2の導入により少なくとも10%の作業タスクに影響を受ける可能性があり、約19%の労働者は少なくとも50%のタスクが影響を受けるとされる」との研究レポート※3が発表されました。
※2 大規模言語モデル。人間の言語を理解し、生成する能力に長けており、膨大な量のテキストデータを使って訓練されたAIモデルのこと。
※3 Eloundou, T., Manning, S., Mishkin, P., & Rock, D. (2023). *GPTs are GPTs: An early look at the labor market impact potential of large language models* (Working Paper). OpenAI.
https://arxiv.org/pdf/2303.10130
どんな職業がAIに代替される?
野村総合研究所は、このレポートにAI・ロボットに代替される可能性の高い職業と、低い職業の例を100種ずつあげています。引用して表にまとめてみました。
2つの表を比べてみると、事務や工務、また作業員などの職業の代替可能性が高く、創造性や五感を使った仕事が代替可能性が低いとされていたことがわかります。
しかし、約10年前のAIの進化状況と2025年現在のAIの進化状況は大きく異なります。この10年で最もインパクトがあったのは、ChatGPTの発達によるAIの民主化でしょう。
OpenAIとペンシルベニア大学の研究レポートでは、2015年の野村総合研究所のレポートにはなかった以下の職種もLLM(LLMを利用した生成AI)の発達により、AIの影響を受けると指摘しています。
OpenAIとペンシルベニア大学の研究レポートで指摘されたLLMの影響を受ける職業
高賃金職業
高賃金の職業は、通常、LLMの能力にさらされる可能性が高いとされています。これは、LLMが複雑なタスクや高度なスキルを必要とする業務にも適用されるからです。
文書作成および情報処理関連職
例えば、ライター、翻訳者、データアナリストなどの職業は、LLMを活用することで業務効率が向上する可能性があります。これらの職業は文書の生成や情報の処理を行うため、LLMが直接的に役立つことが多いです。
プログラミング職
プログラミングやソフトウェア開発に関わる職業もLLMによる影響を受けやすいです。LLMはコード生成やデバッグ支援などを行う能力があり、これによってプログラマーの作業が効率化される可能性があります。
クリエイティブ職
詩人、作家、デザイナーなどのクリエイティブな職業も影響を受ける可能性があります。LLMは新しいアイデアやコンテンツを生成する能力を持っているため、クリエイティブなプロセスをサポートすることができます。
教育関連職
教師や教育者もLLMの影響を受ける可能性が高いです。LLMは教材の生成や学生の課題の評価に利用される可能性があります。
法律関連職
法律事務所で働く人々や法務分析家も、LLMを利用して迅速なリサーチや文書のレビューを行うことで業務を効率化できるでしょう。
データ分析職
データサイエンティストやアナリストは、LLMを用いてデータの分析やレポート作成を行うことで、より迅速にインサイトを得ることができます。
ChatGPTの性能(2025年時点)
ChatGPTを通して、誰もが気軽にAIに親しむようになった今、ChatGPTはどれだけの仕事を代替できるのでしょうか?
2025年時点ではChatGPTは 2022年のリリース当時よりも多くの新機能と改良を備えています。これまでのChatGPTモデルよりも突出した点を見てみましょう。
最新モデル o3
最新モデルであるo3モデルは、従来のGPTシリーズとは異なり、複雑な問題を解決するためにより多くの時間をかけて考える能力を持っています。このモデルは、科学、コーディング、数学などの分野で特に優れており、複雑なタスクを効果的に処理することができます。例えば、物理学の難解な問題や高度な数学的計算を行う際には、o3モデルが最適といえるでしょう。
マルチモーダル
さらに、ChatGPTはテキストだけでなく、画像や音声も理解し、生成することができるようになりました。このマルチモーダル機能により、ユーザーは画像をアップロードして質問したり、音声で指示を出したりすることが可能です。例えば、旅行中にランドマークの写真を撮ってその詳細を尋ねたり、冷蔵庫の中身を撮影して夕食のアイデアを得たりすることができます。また、音声入力と出力の機能も強化されており、リアルタイムでの自然な会話が可能です。
いま、ChatGPTが代替できる仕事は?
2015年の野村総合研究所のレポート発表時にはChatGPTはまだ登場しておらず、2023年8月のOpenAIとペンシルベニア大学の研究レポート発表時のChatGPTのモデルはGPT-4でした。ChatGPTの性能が飛躍的に向上した、いまChatGPTが代替できる人間の仕事とはどんなものでしょうか?
ChatGPTをはじめとした生成AIだけでなく、AI全体の発達により、いくつかの職業が影響を受けています。例えば、カスタマーサポート、コンテンツ作成、データ分析などの分野では、ChatGPTが多くのタスクを自動化することができます。具体的には、カスタマーサポート向けのチャットボットとしての利用や、記事やレポートの作成サポート、データの解析と報告のサポートなどが挙げられます。
ハルシネーション※4の問題や、ChatGPTが苦手とする領域があるため、まだまだChatGPTだけで完遂できる仕事は多いとはいえませんが、企業はChatGPTの導入によりコスト削減と効率化を図ることができます。従業員は従来のように仕事をこなすというよりも、ChatGPTを利用しながら仕事を行うなど、役割が変わってきている職場も少なくないでしょう。
※4 生成AIが事実に基づかない情報を本物らしく生成してしまうこと
AIにまだ難しい作業=人間の強みが活きる領域
前述のように、AIの進化は目覚ましいものの、人間にしかできない領域はまだ多く存在します。生成AIの発達により、AIにもアイデア出しができるようになったものの、人間の豊かな経験や直感、独自の発想力を活かした革新的なアイデアの創出は、AIには完璧には模倣できません。
また、複雑な感情理解や共感を必要とする対人コミュニケーションも、AIの苦手とする分野です。人間同士の微妙なニュアンスや文脈を読み取り、適切に応答する能力は、AIにはまだ不足しています。カウンセリングや交渉など、相手の感情に寄り添いながら進める業務は、人間の強みが発揮される領域といえるでしょう。前項でふれたカスタマーサポートも、かんたんな問い合わせや質問はチャットボットに、複雑な内容は人間が対応する、というように役割を分けている企業も多いようです。
予測不可能な状況下での臨機応変な判断も、AIには困難です。データや過去の事例に基づく判断は得意ですが、前例のない事態に直面した際の柔軟な対応力は、人間ならではの能力です。危機管理や戦略的意思決定など、不確実性の高い場面では、人間の経験と洞察力が重要な役割を果たします。
さらに、倫理的・道徳的な判断を伴う意思決定も、AIには難しい課題です。価値観や文化的背景を考慮しながら、社会的影響を見据えた判断を下すことは、人間にしかできない重要な役割です。これらの領域では、人間の知恵と経験が今後も不可欠であり続けるでしょう。
AIの使いどころは仕事の置き換えか、仕事の補完か
私たちにとって最も身近なAIであるChatGPTの性能の現在地からして、「AIが人間の仕事を奪う」というトピックスはまだまだ現実的とはいえない、というのが、2025年現在での結論です。それぞれの領域の専門のAIも発達していますが、まだ人間の仕事を完全に代替できるといえるものは無いかもしれません。しかし、労働人口の減少やそれに伴い目指すべき生産性の向上などの観点から、我々はAIと付き合いながら仕事をしていく道を模索していくべきでしょう。
ここで私達が考えるべきは、「AIが人間の仕事を奪う」ことよりも「どういった業務でAIを利用するか」です。AIが仕事に与える影響は、単純な置き換えか補完かという二択ではなく、業務の性質によって大きく異なります。大きく分けて2つ。AIにより自動化が進められる仕事と、AIで補完しながら効率的に進めていくべき仕事です。
例えば、AIによる自動化が進められる仕事でいえば、文章作成や問い合わせ対応などはすでに自動化を進めている企業もあるでしょう。お客様向けのチャットボットを公開しているカスタマーサポートや、総務部に変わって社員の疑問に回答するFAQをChatGPTで作成・運用している企業もあります。
また、AIで補完しながら効率的に進めていくべき仕事でいえば、営業職では顧客データの分析やレポート作成にAIを活用することで、戦略立案や顧客との関係構築により多くの時間を割けるようになるでしょう。ChatGPTを利用した社内文書検索で、営業先で受けた質問を素早く検索し、回答することでお客様の時間も大切にすることができます。
まだ、AIをどのように仕事に組み込むべきか試行錯誤していく必要のある仕事もたくさんありますが、このように、AIと人間が協働することで生産性が向上し、より付加価値の高い仕事に注力できるようになります。
ただし、AIの性能を過大評価し、人間の役割を軽視することは危険です。AIにはまだ限界があり、特に倫理的判断や創造性を要する場面では人間の介在が不可欠です。逆に、AIの可能性を過小評価し、導入を怠ることで競争力を失う恐れもあります。
重要なのは、AIと人間それぞれの強みを理解し、最適な組み合わせを見出すことです。AIに任せられる仕事をAIに任せつつ、人間はその結果を解釈し、戦略的な意思決定を行うといった役割分担が効果的でしょう。
「AIに奪われる仕事」のいま
「AIが人間の仕事を奪う」といわれて10年目に差し掛かろうとしているいま、まだ現実的ではないとしても、前項の「AIによる自動化」が進む仕事においては、今後大きな変化がある可能性があります。実際に生成AIの登場により、「AIによる代替可能性の低い職業」にリストアップされていた職業も、OpenAIとペンシルベニア大学の研究レポートが示すように生成AIの影響を受け始めており、10年前に想定されていたものとは違った形で社会は変化しています。
10年前に予測された通りのこととしては、「AIによって代替されやすい職種」の具体例には、データ入力やルーチン作業を含む事務職、単純な製造作業、コールセンターのオペレーターなどが挙げられています。実際に、完全にAIに任せるとまではいかずとも、大手企業の中には既にAIを活用して業務効率化を図り、人員削減を行っているケースも見られます。
また、10年前の予測と異なる現実を生み出したのは生成AIの台頭によるものでしょう。動画や画像、音声などでもAIの活用が始まっており、「AIによる代替可能性の低い職業」にリストアップされていた作詞家、作曲家、映画カメラマン、グラフィックデザイナーなどのクリエイティブ職もAIの影響を受け始めています。
さらに注目すべきは、これまで人間の専門性が必要とされてきた領域にもAIの波が押し寄せていることです。例えば、法律分野では契約書の作成や法律文書の分析にAIが活用され始めており、医療分野でも画像診断や治療計画の立案にAIが導入されつつあります。
AIと共存する未来の働き方
AIと人間の共存は、今後の働き方を大きく変えていく可能性があります。AIが完全に人間の仕事を代替することは当面考えにくいものの、AIを活用して生産性を向上させる段階は確実に訪れるでしょう。
この変化に適応するためには、AIの特性を理解し、人間ならではの強みを活かすことが重要です。例えば、AIはデータ処理や分析が得意ですが、創造的な思考や複雑な意思決定は人間の領域です。
今後は、AIと人間がそれぞれの長所を生かし、補完し合いながら新たな価値を創造していく働き方が主流になると考えられます。この変化に備え、継続的な学習とスキルアップが不可欠となるでしょう。
これからの職場で求められるスキル「AIリテラシー」
AIリテラシーは、現代の職場環境において不可欠なスキルとなりつつあります。これは単にAIツールの操作方法を習得するだけでなく、AIの基本的な仕組みや概念を理解し、適切に活用する能力を指します。
AIリテラシーの重要性は、日々進化するテクノロジーに対応し、業務効率を向上させる点にあります。基本的なAI用語や概念を理解することで、AIツールの特性や限界を把握し、より効果的に活用できるようになります。
しかし、AIツールを使いこなすだけでは不十分です。適切な活用方法を習得することが重要です。例えば、ChatGPTを使用する際、入力するプロンプトの質が出力結果に大きく影響します。的確な指示を出せるスキルを磨くことで、AIの能力を最大限に引き出せます。
同時に、AIの限界や倫理的な問題点を認識することも欠かせません。AIが生成した情報の信頼性を評価し、必要に応じて人間の判断を加えることが求められます。また、AIの使用に伴うプライバシーやセキュリティの問題にも注意を払う必要があります。
AIリテラシーを身につけることで、AIと人間の強みを組み合わせ、より創造的で価値のある仕事を生み出すことができるでしょう。これは、AIと共存する未来の職場において、重要な競争力となります。
AIをパートナーにする
AIとの協働は、単なる業務効率化にとどまらず、新たな価値創造の可能性を秘めています。例えば、データ分析や報告書作成において、AIツールを活用することで、人間は膨大なデータを短時間で処理し、より深い洞察を得ることができます。これにより、戦略立案や意思決定に多くの時間を割くことが可能となり、ビジネスの質的向上につながります。
また、クリエイティブな分野でも、AIとの協働は新たな地平を開きつつあります。デザインやコンテンツ制作において、AIが素材の生成や初期案の提示を担当し、人間がそれをブラッシュアップすることで、従来にない斬新なアイデアが生まれる可能性があります。このように、AIと人間がそれぞれの強みを活かし、補完し合うことで、想像を超える相乗効果が期待できます。
さらに、AIとの協働は、人間の創造性や発想力を刺激し、新たなイノベーションを生み出す触媒となる可能性があります。AIが提示する予想外の組み合わせやパターンが、人間の固定観念を打ち破り、革新的なアイデアの源泉となることも少なくありません。このように、AIとの協働は、単なる効率化ツールではなく、人間の創造性を増幅させ、新たな価値を生み出す重要なパートナーとなりつつあります。
人間ならではの創造性を活かす新しい職種
AIの台頭により、人間ならではの能力を活かす新たな職種が生まれつつあります。例えば、AIと人間の協働を円滑に進めるAIコーディネーターは、両者の強みを最大限に引き出す重要な役割を担います。また、複雑な倫理的判断が求められるAI倫理コンサルタントは、技術の発展と人間社会の価値観のバランスを取る専門家として注目されています。
感情的知性や共感力を必要とする職種も拡大しています。メンタルヘルスコーチやエモーショナルデザイナーなど、人間の感情を深く理解し、寄り添うことのできる専門家の需要が高まっています。これらの職種は、AIには難しい繊細な感情の機微を捉え、個々人に合わせたサポートを提供します。
さらに、抽象的思考や複雑な問題解決を要する職種も発展しています。未来予測アナリストや創造的問題解決コンサルタントなど、多角的な視点から新たな可能性を見出し、革新的なソリューションを生み出す人材が求められています。これらの職種は、AIのデータ分析能力を補完しつつ、人間特有の直感や経験則を活かすことで、より高度な価値を創造します。
AIを使いこなすなら、法人用ChatGPTからはじめよう
「AIが人間の仕事を奪う」と語られはじめてから10年が経とうとしているいま、かつて予測された形そのままではなくとも、世の中はAIを受け入れ、共存する方向へと歩みを進めています。
AIを使いこなし、仕事でどのように利用できるか考えられる発想力はこれからどんどん重要になってくることでしょう。まだ業務にAIを取り入れていない方は、まずは法人用ChatGPTから始めてはいかがでしょうか?
法人向けChatGPT「HEROZ ASK」では、セキュリティに関する基本的な機能に加え、部署ごとのアクセス権限設定や、社内データの安全な活用が可能です。また、Microsoft Azureの環境で会話履歴が学習されない設定を採用し、機密情報の保護を強化しています。
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この記事の情報は2025年3月14日時点のものです。